作業療法士(OT)の職場では、人間関係や給与の伸び悩み、業務負担の重さなどが重なると、離職につながることがあります。実際に厚生労働省のデータを見ると、医療・福祉分野の離職率は年によって全産業平均を上回ることもありますが、直近の令和6年(2024年)は全産業平均と同程度かやや低い水準です。
ただし、入職後数年の早期離職や中堅層のキャリア不安には注意が必要です。本記事では、公的データに基づいて作業療法士の離職率の実態を整理し、よくある退職理由と長く働き続けるための具体的な解決策を解説します。
この記事でわかること
作業療法士の離職率を正確に把握するには、公的統計の読み方を理解しておく必要があります。OT単独の離職率データは公表されていないため、厚生労働省の雇用動向調査や賃金構造基本統計調査から医療・福祉分野全体の数値を参照します。
厚生労働省の雇用動向調査によると、医療・福祉分野の年間離職率は、令和3年が13.5%、令和4年が15.3%、令和5年が16.9%、令和6年が13.8%です。全産業平均は令和3年が13.9%、令和4年が15.0%、令和5年が15.4%、令和6年が14.2%であり、医療・福祉分野は年によって全産業平均を上回ることもありますが、直近では同程度かやや低い水準となっています。
つまり、「作業療法士の離職率は特別に高い」という認識は必ずしも正確ではありません。ただし、医療・福祉分野全体のデータであり、作業療法士単独の離職率ではない点には注意が必要です。勤務先の種類や人員体制によって働きやすさは大きく変わるため、教育担当者の有無、記録業務の分担、研修時間の扱い、面談頻度を確認することが重要です。
| 年度 | 医療・福祉分野の離職率 | 全産業平均 |
|---|---|---|
| 令和3年 | 13.5% | 13.9% |
| 令和4年 | 15.3% | 15.0% |
| 令和5年 | 16.9% | 15.4% |
| 令和6年 | 13.8% | 14.2% |
同じ作業療法士でも、勤務先の種類によって働きやすさや定着しやすさは変わります。病院、介護施設、訪問看護ステーションでは、業務内容、人員配置、書類業務、オンコールやシフトの有無などが異なるため、離職リスクも一律には判断できません。
職場タイプの選択は働き続けやすさに大きく関わるため、転職や就職の際は勤務先ごとの業務内容や支援体制を確認しておくことが重要です。訪問看護ステーションでリハ職を雇用する管理者の立場から見ても、スタッフがどのような環境で定着しやすいかを把握しておくことは、採用戦略を立てるうえで欠かせません。
作業療法士の離職を考える際は、入職後数年の早期離職と、中堅層が抱えやすいキャリア不安の両方に目を向ける必要があります。ここでは、それぞれの時期に起こりやすい課題を整理します。
厚生労働省の新規学卒者の離職状況では、作業療法士単独の3年以内離職率は公表されていません。そのため、医療・福祉分野に就職した大卒者のデータを参考値として見る必要があります。直近の完全な3年以内離職率では、医療・福祉分野はおおむね3割前後で推移しており、入職後数年は、離職リスクが高まりやすい時期といえます。
新卒期に離職が集中する背景には、学生時代に描いていた理想と現場のギャップがあります。臨床実習では見えなかった書類業務の多さや多職種連携の難しさが、入職後のリアリティショックにつながるケースが少なくありません。この時期をいかに支えるかが、組織の定着率にも大きく影響します。
賃金構造基本統計調査では、作業療法士の年齢や勤続年数、賃金水準を確認できます。ただし、このデータだけで「30〜40代で離職が加速する」と断定することはできません。中堅層では、給与の伸び悩み、後輩指導や管理業務の増加、育児・介護との両立などが重なり、キャリアを見直すきっかけになりやすいと考えられます。
中堅層の離職は、新卒のように短期間で辞めるのではなく、数年かけて不満が蓄積した結果であることが多いのが特徴です。給与の頭打ち感、管理業務の増加によるクライエントとの関わりの減少、ライフイベント(結婚・出産・育児)との両立困難など、複数の要因が絡み合います。
管理者としてスタッフの離職を防ぐには、こうした中堅層特有の課題を早期に察知し、個別にキャリア面談を行うなどの対応が求められます。
作業療法士の退職理由は多岐にわたりますが、現場で起こりやすい課題として、大きく5つのカテゴリに整理できます。それぞれの背景を掘り下げます。
OTの初任給は医療職として平均的な水準ですが、問題は昇給ペースの緩やかさにあります。診療報酬や介護報酬の枠組みのなかで収益構造が決まる医療・福祉業界では、個人の成果が給与に反映されにくい仕組みになっています。
5年、10年と経験を積んでも給与の伸びに限界を感じやすい状況が、特に家庭を持つ30代以降のOTにとって離職を考えるきっかけになる場合があります。管理者が待遇改善に取り組む際には、基本給だけでなく資格手当や研修手当の充実、助成金の活用なども選択肢に入れるとよいでしょう。
クライエントの移乗介助や身体誘導を伴うOTの業務は、身体的な負担が大きい仕事です。これに加えて、カルテ記載・計画書作成・カンファレンス参加などの事務作業が重なり、残業が常態化している職場もあります。
精神面では、回復が思うように進まないクライエントへの対応や、終末期の関わりによる感情的な負担が蓄積します。休みにくい職場文化が存在する場合、心身の回復が追いつかず、バーンアウトに至るケースもあります。
医療・福祉の現場は多職種が密に連携する環境であるため、人間関係の摩擦が生じやすくなります。直属の上司との関係性や、他職種との意見の食い違いが慢性的なストレス源となり、離職を考えるきっかけになる場合があります。
特に規模の小さい職場では人間関係の逃げ場が少なく、一度こじれると修復が難しいという特徴があります。管理者の立場では、定期的な1on1面談の実施やチームビルディングの仕組みづくりが有効な予防策です。
「5年後、10年後にどうなっているか想像できない」という声は、OTの退職理由として頻出します。専門職としてのスキルアップの道筋が見えにくく、学会発表や資格取得を自己負担や自己努力に頼らざるを得ない環境が多いことが背景にあります。
組織としてキャリアラダー(段階的なスキル成長の道筋)を提示し、研修機会を制度的に保障することで、この不安は軽減しやすくなります。スタッフが自分の成長を実感できる仕組みは、定着率の向上につながります。
シフト勤務や急な欠員対応、休日の研修参加など、OTの働き方はプライベートとの境界があいまいになりがちです。以下の表は、ワークライフバランスを崩す主な要因とその影響をまとめたものです。
| 要因 | 具体的な状況 | 想定される影響 |
|---|---|---|
| 残業の常態化 | 書類業務が勤務時間内に終わらない | 疲労が蓄積しやすい |
| 休日出勤・研修参加 | 自己研鑽が事実上の義務となっている | 休日を確保しにくい |
| 有給取得の困難 | 人手不足で休みを申請しにくい | 疲労が蓄積しやすい |
| 育児との両立 | 時短勤務の制度はあるが実質的に機能しない | 離職検討につながりやすい |
特に育児中のスタッフにとって、柔軟な働き方が実際に運用されているかどうかは、在籍を続けるかどうかの判断に影響します。
離職を「個人の問題」として片付けず、教育・面談・研修管理を仕組み化することが重要です。ここでは、職場で実践しやすい具体的な施策を紹介します。
入職後数年の早期離職リスクに対応するには、入職初期の教育体制を整備することが最優先です。プリセプター(教育担当者)を配置するだけでなく、業務外で気軽に相談できるメンターを別途つけることで、新人の孤立を防ぎます。
教育内容を標準化し、「誰が教えても一定の質で指導できる」体制をつくることが、新人の安心感につながります。教育マニュアルの整備や動画教材の活用によって、指導者の負担も軽減しやすくなります。はぐくものeラーニングシステムでは、リハ職向けに2,200本以上の動画コンテンツが用意されており、新人が自分のペースで学習を進められます。1本15〜30分の動画は倍速再生にも対応しているため、忙しい業務の合間にも活用しやすい設計です。実際のコンテンツラインナップや操作感を確認したい方は、1ヶ月無料のフリートライアルをご活用ください。
キャリアパスの不透明さを解消するには、研修参加を個人任せにせず、組織として制度的に保障する必要があります。年間の研修計画を策定し、勤務時間内での受講を認めることが理想的です。
はぐくもの研修管理機能を活用すれば、研修コースの選定から対象スタッフの割り当て、受講期間の設定まで3ステップで完了します。研修案内やリマインドの自動配信、帳票作成の自動化により、管理者の事務負担を削減しやすくなります。さらに、人材開発支援助成金の「定額制訓練」では、一定の要件を満たす場合、経費助成率は中小企業で60%です。助成金活用を含む導入費用の詳細は、資料請求ページからご確認ください。
中堅層の「静かな離職」を防ぐためには、不満や不安が表面化する前に把握する仕組みが欠かせません。四半期ごとの1on1面談を制度化し、業務負荷・キャリア展望・人間関係の3つの観点で定期的にヒアリングを行います。
面談内容を記録・蓄積することで、離職リスクの高いスタッフを早期に特定できるようになります。「辞めたい」と言われてから対応するのではなく、相談される前に動ける仕組みを整えることが、管理者に求められる対応です。
組織の仕組みだけでなく、OT個人として長くキャリアを維持するためにできることも数多くあります。ここでは、日々の働き方やキャリア設計の観点から実践的なヒントを紹介します。
研修や学会への参加を「業務外の負担」ではなく「自分への投資」と捉え直すことで、モチベーションの維持につながります。専門性を高めることは、転職市場での自身の価値を上げることにもなり、「いつでも動ける」という安心感が現職への前向きな姿勢を支えます。
オンライン学習を日常のルーティンに組み込むことで、無理なく継続的にスキルアップできます。
転職を検討する際、給与だけで判断すると同じ悩みを繰り返す可能性があります。以下の表を参考に、自分が重視する条件を優先順位をつけてみてください。
| 判断基準 | 確認方法 | 重視すべき理由 |
|---|---|---|
| 平均勤続年数 | 求人情報・面接時の質問 | 職場の定着状況を確認する参考になる |
| 研修制度の有無 | 募集要項・入職前の見学 | スキルアップ機会がキャリア不安を軽減する |
| 有給取得率 | 面接時の質問・口コミサイト | ワークライフバランスの実態を反映する |
| 離職率 | 面接時の質問・公開情報 | 職場の満足度を示す参考になる |
なお、はぐくもを契約している法人では、リハ職約8.5万人が登録するリハノメに求人情報を無料・期間無制限で掲載できます。求職者の立場からは、研修体制が整った法人を見つける手がかりにもなります。
OTとしてのキャリアに行き詰まりを感じた場合、「辞めるか続けるか」の二択ではなく、OTの専門性を活かした多様なキャリアパスがあることを知っておきましょう。教育分野、福祉機器メーカー、行政の相談支援員、産業保健領域など、リハの知識と対人支援スキルは多くの分野で求められています。
セカンドキャリアを視野に入れること自体が、現在の仕事を客観的に見つめ直すきっかけになります。「この職場でしか働けない」という思い込みから解放されることで、逆に今の仕事への向き合い方が変わる場合もあります。
OT・PT・STそれぞれの単独離職率は公的データとして公表されていません。いずれも医療・福祉分野に分類されるため、医療・福祉分野全体の離職率を参考値として見る必要があります。ただし、職場タイプや地域、組織の人員体制による差のほうが職種間の差よりも大きい場合があるため、転職・採用時には職場ごとの勤務環境を具体的に確認することが重要です。
作業療法士単独の3年以内離職率は公的データとして公表されていません。医療・福祉分野に就職した大卒者のデータを参考にすると、入職後数年は、離職リスクが高まりやすい時期といえます。特に入職初期は、理想と現場のギャップによるリアリティショックが離職を考えるきっかけになる場合があります。組織としては入職後1年間の教育支援を手厚くすることが、早期離職の防止に効果的です。
最も即効性があるのは、定期的な1on1面談の制度化です。スタッフの不満や不安は突然表面化するのではなく、数か月から数年かけて蓄積されます。四半期に1回、業務負荷・キャリア展望・人間関係の3軸でヒアリングを行い、課題を早期に把握して対処する仕組みを整えることが最優先です。並行して、研修体制の整備やeラーニングの導入も進めると、スタッフの成長実感が高まり、定着率の向上につながります。
作業療法士単独の公的な離職率は公表されていませんが、医療・福祉分野全体のデータを見ると、全産業平均と同程度の水準で推移しています。ただし、入職後数年の早期離職や中堅層のキャリア不安という課題は見過ごせません。給与の伸び悩み、業務負担、人間関係、キャリア不安、ワークライフバランスの乱れという5つの退職理由に対し、組織と個人の双方からアプローチすることが求められます。
管理者としては、教育体制の標準化、研修機会の制度的保障、定期面談の仕組み化が主な柱となります。スタッフ個人としては、スキルアップを日常に組み込み、職場選びの判断基準を明確にし、多様なキャリアパスを視野に入れることが長く働くための力になります。まずは直近1年の離職者数、退職理由、面談実施状況を整理し、改善すべき課題を明確にしましょう。eラーニングや研修管理の仕組みを試したい方は、1ヶ月無料のフリートライアルで操作感を確認できます。機能や料金の詳細を知りたい方は、資料請求ページからご確認ください。
この記事のまとめ